職人文化人類学

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【総集編】金髪女とヒゲロン毛が行く!〜仕立屋と二万頭の蚕達〜

2018/7/17 職人文化人類学の実践 Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

witer:ワタナベ

今回の記事は今まで蚕密着取材の総集編です。
【養蚕ターン】と【糸取りターン】の二部構成となっています。
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※記事が進むにつれ蚕の写真が出てきます。
拡大蚕、密集蚕、亡くなられた蚕、蚕の排泄物等々…
虫が苦手な方は気合いを入れてご覧ください。
でも、こうやって絹ができているのか、
いう現実を是非とも見て欲しい!
そう思い、掲載させていただきます。
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6月の上旬。梅雨入り前の晴天の日。
賤ヶ岳の麓、長浜市木之本町大音。
佃平七糸取り工房へ。

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蚕を育て繭をとり、糸をとる。
今ではなかなか見ることがなくなった養蚕の現場があると
絹弦をつくっている丸三ハシモトさんに教えてもらい
仕立屋は大音の町へ足を踏み入れました。

【養蚕ターン】

初めて出会った蚕。
この時のあたしは蚕と大音の方たちと
時間を過ごしていくうちに
蚕にズッポリと心奪われ虜になるとは
思ってもいませんでした。

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とても小さくて、蚕達の密集を遠くから見ると
チリメンジャコの集合体にしか見えませんでした。

蚕を育てるためには大量の桑の葉が必要です。
↓何箇所かある桑畑の一つ。
すぐ隣を流れる川には蛍が出るそうな…

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着物一着をつくるには繭が約3000個必要だそうです。
(着物、繭の種類によって数は異なります。)
繭が3000個てことは蚕が3000頭必要ということです。
その3000頭育てるためには桑の葉が約100kg必要です。

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繭の出来も桑をどれだけ食べられるかにかかっています。
そのために安定的に供給できる大量の桑が必要。
なので蚕を育てる前に桑を育てなければならないのです。

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大音養蚕の里づくり協議会の皆様がお仕事の合間に
蚕達の世話をしに来ております。

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蚕の成長の具合によって
桑の葉の量、桑の葉の提供方法が変わっていきます。

まだ小さい蚕には葉を細かく切り蚕の上にまぶします。
この↓桑の葉の下に二万頭の蚕がいます。

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成長するとどんどん生活スペースを広げていきます。

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「蚕は、天に登るように桑を食べる。」

蚕の上に桑の葉っぱを乗せると新鮮な葉の方に移動します。
葉っぱの下からすぐに顔を出すのです。

人間ではつくりだせない絹を生み出すことができるから、
昔から献上品として特別なものとして扱われていたから、
だから、天の虫と書いて蚕なのだと思っていました。

蚕自体が天に向かって動き、生きているから、
天の虫と言われるのも理由の一つなのかもしれません。

極小スペースで生きていた蚕たちは
蚕ハウスいっぱいに敷き詰められるほどに大きくなります。

そして桑の葉を食べる勢いは止まりません。
「モシャモシャ」と桑の葉を食べる音が
とても大きな音で聞こえてきます。

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この居住空間拡大方法は、
蚕達が桑の葉をムシャムシャ食べている時に
桑の葉ごと移動させていきます。
↓わかりますでしょうか?
桑にぶら下がっている蚕達が。

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蚕は「眠」と「脱皮」を繰り返して成長します。
桑を食べて、寝て、起きて、脱皮をする。
これを4回繰り返します。
(この回数は蚕の品種によっても異なります。)

脱皮が終わるごとに、桑の葉を食べる量が
どんどん増えていきます。
そして、4回目の眠を過ぎたら糸を吐く準備に入ります。

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日々蚕達を見ていたら
何千年も前から葉っぱを食べて繭を作り続けているのか、
と、それを想像したら神秘的でたまりません。
興奮します。一大スペクタクルです。

↓眠に入っている蚕。
頭を天に向けこのまま静止しています。
ムシャムシャと桑を食べる音が止み、
ひっそりと静まり返るのです。

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そして、眠が終わると脱皮します。
脱皮を重ねていくとどんどん綺麗な白になっていきます。
フニフニスベスベの気持ちい触り心地。
最高。

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最後の脱皮がが繰り返されると
十円玉の大きさに満たなかった子達が
こんなにも大きくなるのです。

そして、糸を吐く準備をするため
ラストスパートで桑を食べまくります。

頃合いを見計らい、蔟(まぶし)を置きます。

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「もう桑は大丈夫、そろそろ糸吐くぜ!」
という蚕達がこの蔟に登ってくるのです。

この頃の蚕は体の中が液状の絹でいっぱいになっています。
だから、日が当たると体が透けて見えるのです。
とても綺麗。本当に、綺麗。
フォトジェニック!!!!

スベスベだった触り心地は
ブヨブヨとした触り心地に変わっていきます。

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さらに成長が早い子は、どんどん糸を吐き始めます。
↓糸を吐いているの見えますか?

(この瞬間大興奮したことを忘れもしません。
だって、あたしの指の上で貴重な絹を吐いているのですっ!)

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液状の絹を口から、八の字を描きながら吐いていきます。
この八の字は観察していて見ることはできません。
細かすぎて、ミクロの世界すぎて、顕微鏡レベルです。

この八の字のおかげでがふっくらとした
絹の布を織り上あげることができるのです。

吐く糸の細さは0.02mm程度。
(人間の髪の毛は約0.08mm前後)
0.02mmの中にまた三角の構造があって、
さらにその中に空気溝と細い糸が入っていて…
という、極細の糸の集合体というイメージです。

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この三角形という形の集合が
光を反射させ絹独特の光沢感を生みます。
蚕達の持っているポテンシャル、半端ない。

という、吐く糸の構造は人間ではつくり出せない
ミクロの世界で繰り広げられています。

ある程度、蔟に蚕が登ったら
天井から吊ります!

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蚕の習性で上へ上へ登っていくので、
みんなが上部に集まると、重さでこの蔟が回転し、
そして、またみんなが上へ登りながら、
どの部屋で繭をつくろうかなと部屋を決めていきます。

蚕のマンション状態です。一蚕一部屋的な入居方法です。
この中で繭をつくるのです。

この頃は6月の終わり。
暑い中、みんなで力を合わせて吊っていきます。

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そして、部屋いっぱいに蔟が吊られ、
一斉に繭をつくり始めるのです。

この中は暖房がついていて暑いです。
寒くなってしまうと折角糸を吐き始めた蚕達は
糸を吐くのをやめてしまいます。
やめてしまったら途中で糸が切れてしまうのです。
だから、最後まで気が抜けません。

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なんとも圧巻です。
美しくて、神秘的でいつまででも見ていられます。

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繭をつくる音は、プチプチと微かな小さな音がします。
桑の葉を食べる音が天気予報で
傘マークが出る程度の雨ならば、
繭をつくる音は傘がいるか悩む小雨程度の音です。

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そして、糸を吐き切り、蛹になった頃。
蔟から繭をとります。

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この機械に入れると繭が押し出され
下に落ちてきます。
この機械、その名も「まゆエース」

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蔟をみんなで綺麗にして秋の養蚕に備えます。
養蚕は桑の葉が青々と成長する時期、
春と秋に行われています。

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二万頭いた蚕達みんなが
こんなにも↓綺麗な繭をつくれるわけではありません。

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成長できなかった蚕、
蔟から落ちてしまう蚕、
あと一歩の所なのに繭をつくれない蚕、
糸を吐いている途中で息絶えた蚕、
死んでしまう蚕はたくさんいます。

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大音に来た二万頭全部が繭をつくることはできません。
その中で生き残った蚕たちだけが繭をつくることができます。

綺麗な絹が生まれる過程では
綺麗だけではないことがたくさんあります。
蚕の命をかけた繭によって絹が生まれるのです。

↓一日三回毎日、その日の気温、食べた桑の量、
どれくらいに成長したか、どんな状態か、
全て記録しています。
手をかけて、愛情を注いでも、相手は生き物です。
マニュアル通りになんていきません。

しかし、その日の気温や成長具合によって
臨機応変に対応できるのは人が見守り続けるからとも言えます。

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絹をつくるため蚕の命をいただいている分、
真摯に愛情を持って育てることが
蚕達に対しての感謝の表現なのだと思います。

みんなご飯をあげに来た時や様子を見に来た時、
蚕達に必ず声をかけていました。
「いっぱい食べるんだよー」
「元気に育つんだよ!」
「いい繭つくってね」
と。
それを見ていて伝わるのは、愛情でした。
あたしは素敵な時間をここで過ごしたのだと
改めてこれを書きながら感じています。

そして、大音に蚕がきてから約一ヶ月。
一ヶ月で蚕は繭をつくりあげました。

【糸取りターン】

繭の中には蛹がいます。
そのまま繭を置いておくと羽化して
蚕蛾になります。蛾です。

羽化してしまう前に蛹の命を断ちます。
そうしないと、繭から糸が取れなくなってしまうのです。

生繭(蛹が生きている繭)を↓この装置を使って殺します。
殺しますって言葉、心が苦しい。
でも、事実、絹は蚕達の命をいただいています。

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↑下の小窓部分から炭を入れ燃やし、その上に釜に水を入れ、
水蒸気がのぼっていき、熱で蛹を殺すという仕組みになっています。

↓木枠の中に生繭を敷き詰め椿の葉をおきます。
椿の葉の色の変化を見て、
繭を取り出すタイミングを計るのです。
ストップウォッチは椿の葉。

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葉の色が変化したら繭を取り出します。

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この時点で一つでも蛹が生きていたら、数日後羽化します。

その羽化した蚕蛾が他の繭の上を歩いてしまったら、
蚕蛾が出す粘液に触れた繭は溶けてしまい
その繭はもう使えないとのこと。

とても慎重で大事な作業です。

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熱を冷ました後は、貯蔵庫に乾燥させながら保管です。
糸取りをするまでこの場所で待機します。

そして、↓ここでは座繰り製糸によって糸取りをします。
器械製糸が主流の中、ここでは人の手を使い糸をとるのです。

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繭の入っている鍋は熱湯です。
熱湯の中に繭を入れて柔らかくして緒(いとぐち)を探します。
糸の端を見つけて一本一本巻き取っていくのです。

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↑ミニ箒みたいな道具で繭を撫で撫ですると糸が引っかかって
糸の端を見つけることができるらしいのですが、
なぜそれができるのか見てて不思議でした。

経験と感覚。まさに職人技。
そして熱湯の中に指を入れ続ける。
一日の糸取りが終わる頃にはみんなの指がふやけています。

この夏の暑い中、熱湯を前にして
大粒の汗を流しながら職人達は糸を紡いでいきます。

繭丸々一つ、生糸として巻き取れるわけではありません。
糸として巻き取れなかった部分は
紬や真綿になったりと違う製品になります。

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そして、繭の中には蛹がいます。
糸取りの最中、蛹達を拾い上げます。

↓結構写真で見るとかなり衝撃的ですね…
写真より生で見た方が意外と受け入れられます。
触ると固いです。カチカチです。
この蛹達の行く先は釣り具屋さんに行きます。
海では鯛、淡水では鯉科の魚が蛹を好むと
ネットに情報を見つけました。

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いただいた命、全て、使うことができます。
捨てるところは一つもありません。

蚕は家畜化された昆虫です。
羽化して蚕蛾になったとしても、
口もなければ、羽があっても飛ぶことのできない運命。
交尾をすることが一番の目的という人生を送ります。

「家畜なんて、そんなの、人間の勝手だ!」
と嘆いたとしても、
紀元前から養蚕が行われていたという
その事実は変わりません。

絹という存在を通じて
経済が発展したり、文化が伝わってきたり、
様々な歴史の一端を担ってきました。

そして、現在。
世界の絹需要が年々高まってきています。

時代が変わり、どれだけ月日が経とうとも
絹が私たちの生活の中に存在し続けています。
これからも絹は私たちの生活から消えないでしょう。

しかし、それをつくっているのは蚕です。
育てているのは人です。
かかっているのは手間暇です。
ポンッと勝手に絹製品が出てくるわけではありません。

店頭に並ぶ絹商品の価格を見てみてください。
値段の差が激しいと思います。
なぜ、そんなにも絹が高いのか、全て理由があります。
そして、激安なのにも、もちろん理由があります。

ただ、原材料をつくっている分野ほど
収入にならず、辞めざるを得ない状況です。

手間をかけなければ生み出すことができないもの程
消えていってしまう現状はどこの産地も同じだと思います。

産地の消滅は、地場産業の終焉を意味するだけではありません。
その材料があるからこそできた最終製品や、
強いては文化がなくなるということです。

今回、養蚕と糸取りの現場を密着して、
さらにお手伝いもさせていただき、
ものが生まれる源流を見ました。

この記事を見た方達がお買い物に行った時、
「これはどうやってつくられてるんだろう」
「誰がつくったのかな」
「なんでこの価格なんだろう」
そんなことをちょっとでも頭に浮かんだら嬉しいです。

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ご協力いただいた大音のみなさま
丸三ハシモトさま
本当にありがとうございました!!

【番外編】

絹にならない、もう一つの運命を見ました。
そうです、蛹を羽化させてみました。

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そして、蚕にどっぷりハマったあたしは
↓こんな風に超笑顔で蚕の話をするようになりました。
もともとは虫は苦手です。
その感情を超える出会いがここにはありました。

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