職人文化人類学

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仕立屋とTSUGI

2018/7/12 職人行脚 Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

witer:石井

大雨暴風氾濫警報が鳴り響く7月7日、
七夕の朝。

あのメガネで有名な鯖江には
どうやらTSUGIってすげぇ人たちがいるらしいぞ・・・
友達の友達はだいたい友達っていう便利な時代。
紹介してもらいました。

大雨がフロントガラスを叩きつけるなか、
長浜から車で1時間。仕立屋が鯖江に初上陸!
(近い、コレは通える・・・!)

まずは腹ごしらえ。貘の棲む森、オススメです。
鯖江のお肉食べられます。

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(この人たち、仲悪いんでしょうか・・・@貘の棲む森)

TSUGIは福井県鯖江市に移住してきた少数精鋭8人の会社。
仕立屋とほぼ同年代のデザイナーや職人で構成。
自社ブランドを展開したり、鯖江市内の商品開発や
それに伴うデザインを生業としている。
その名も、インタウンデザイナー

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(改装してあるオフィスにはお洒落なアイテムが並んでいる。欲しい。
お土産やプレゼントにいい!というかこんなオフィスいいなぁ・・・)

今回、仕立屋に会ってくれたのは、代表の新山さん。
御歳33歳。石井の一個上。
と、いうわけで、
仕立屋は勝手に運命を感じてここまで来てしまった・・・。

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仕立屋と職人(以下、仕立屋):
いやぁ会いたかったです!ついに会えました!!

TSUGI 新山さん(以下、新山):
あ、覚えてますよ。
産地カンファレンスで質問してましたよね?
僕もあそこにいたので。

仕立屋:
やっぱりあれは新山さんだったんですね!
新山さんと会うのは、ワタナベは2回目、古澤は初めて。
そして石井は実は3回目(東京で一回お会いしてます)。

(仕立屋の紹介を一通り終えて)
仕立屋は一体何屋なのか、というのがありまして。
伝統工芸の職人のコトバや哲学は心を揺さぶります。
その揺さぶられる感覚が日本中に充満していくといいな、と。

そのために伝統工芸の職人と、
デザインも商品開発も教育も販路開拓もやります。
これを職人の生き様、仕立てます!と言っています。が!

ハタから見たらアンタたち何屋なの?
仕立屋って服屋なの?って笑

そこで、
TSUGIはどうやって生まれて、そして何屋さんなんですか?
というのをお聞きしたいなと!

TSUGI 新山さん(以下、新山):
僕は河和田アートキャンプのスタッフとして
大学4年生の時に初めて鯖江にきました。

もともとガリガリ建築を勉強していました。
卒業前の2008年、新築住宅着工数が初めて落ち込んだ。
日本人口のピークも2008年。
かつリーマンショックという。
建築ヤバいな・・・!と進路に悩みました。苦笑
これからの時代は建築をガンガン立てるんじゃなくて、
あるものをどう活かしていくか。
それがテーマになるんじゃないかと思って、
建築家を目指すのやめて、こっちへの移住を決めたんです。

新山さんは当時まだ馴染みがなかったソーシャルイノベーションや
コミュニティデザインに興味を抱いた。
そこで地域に眠るあらゆる原石を見つけ出す。

地方でのプロジェクトに参加する時にたまにギモンに思うのは、
全くのサラ地から新らしいものをつくりだそうとする人が多い気がします。

「ここは何もないところだからさぁ・・・」
と言って自分たちの個性が身を潜め、

斬新さや新鮮さを求めて鋭利な角度から
新しいもの”をつくってみて、

でもそこには自分たちの得意なものや風土、歴史や文化が不在。

ゆえに、
外)なんでコレをつくったんですか・・・?
中)さぁ・・・?誰が担当してたっけ・・・?
というやりとりが多々発生しています。
残るは行き場の無い“新しいもの”。

新しいチャレンジが悪いなんて思いません。
でも日本の各地はすでに新鮮なものでいっぱいだと思うのです。
それ、ググってもでてきません。
あるものをどう見つけて、どう活かすか。

自分たちの町のことを客観的に話す機会と、
それを形に表す機会が少ないのかもしれません。
(とはいえ僕も地元のことはちゃんと見えていない気がします・・・
灯台下暗し・・・)

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新山:
移住して3年目。
職人たちとの飲み会で
「この街でやりたいことを見つけました。デザイナーになります!」
って言ったら超大ブーイング浴びました。笑
なぜかというと、バブル期に政府の施策で
デザイナーとのマッチングが乱発したんですよね。
売ることまで考えず、つくって終わってしまうことが多かった。
90年代前半くらいまで、福井はデザイナー嫌いがスゴかった。

それでも鯖江市は、市立のデザイン学校を作ったんですよ。
校長先生はプロダクトデザイナーの川崎和男さんで。
そこに集まった感度の高い一期生が
今でも鯖江のトップランナーです。
Hacoaさんとか、金子眼鏡店さんがそうですね。
こういう方たちがデザイン大事だ!
という方向に向かっていったんですよ。
ただ、突き抜ける人が出てくると、
そうでない人からヒガミも出てきたり・・・笑

仕立屋:
どこ行っても聞く話ですね・・・汗

新山:
そうは言っても、いよいよヤバいぞ、という時期がきた。
とんでもなく安くメガネを作れるメーカーが出てきたり、
中国製品が流入して来たんです。
鯖江ブランドが生き残るには品質勝負しかないぞ、と。
そこから底上げしていこうと、市が主導でがんばり始めた。

トップランナーは走り続けてもらう。
残りの“くすぶってる人”をどう伸ばして行くか。
それが鯖江市の課題だった。
その辺りから、デザインちゃんとやっていかないとね
という雰囲気が市全体で出来上がったんですね。

仕立屋:
0→1(新しく生み出すこと)というより、
1→10(すでにあるものをどう育てるか)というところですね。

新山:
鯖江は1→10ですよね。すでにたくさんの伝産品がありますからね。

鯖江のメガネづくりは農閑期の副業として発展した。
メガネを一つつくるにも分業制となっている。
そうすることで、職人たちに仕事が行き渡るし、
技術も上がるからだ。
昔、鯖江の漆器職人は周辺の和紙や刃物を売り歩きながら
東北まで漆を取りに行ったそうだ。
近江商人みたいだ。鯖江行商Style。

鯖江に色んな伝産品があったり、チャレンジする風土があるのは
この行商のおかげで風通しが良かったからじゃないかと言っていた。

伝統産業の成り立ちや構造は長浜シルクとも
近いところがある。
仕立屋が引っ越してきたのは近江商人の国、滋賀。
目の前は北国街道。
伝産品がこの道に乗って、
行き来して文化が成熟した。

こんなに近くに参考になる町があるとは・・・
鯖江に行けばきっともっと発見ありますよ!
長浜市様!

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▲TSUGIのプロダクト+仕立屋のプロダクト

新山:
引っ越してきた時は若い人がほんとに少なかった。
青年団入ろうとしたら15年前に無くなったよ、
って言われて・・・笑

市役所からの依頼でリサーチの仕事を受けました。
100軒くらい職人や問屋を周って話を聞いてみたら、
8割ネガティブだった。
バブル期に出来ていた想い出のまま、
思考停止してしまったみたいなんです。
でも残り2割の人たちがその時を取り戻すことによって、
もう一度復活するんじゃないか、って言うんです。
それに共感したんです。

百貨店などの売り場も見にいってみたら
テーブルがどんどん小さくなっている・・・。
職人がちゃんと頑張ってつくっているのを見てきたので、
それを伝えられる場所が減ってることが悔しかったんです。
同じ工芸品でも直営店出してバンバンやってるところと、
一体何が違うんだろう?!と。
それは技術の差ではなくて、ブランディングの差や!
と思ったんです。
デザインが地域に介入しないとダメだと感じて
デザイナーになることを決めたんです。

この街で生きて行くには、流通までわかるデザイナーに
なる必要があると思いました。
我流でグラフィックデザインのトレーニングを重ねて。
県内のデザイン事務所には縁がなく、
最終的には鯖江の市役所が拾ってくれました笑
でも市役所でデザインするってパッとイメージ湧かないですよね?

その時、市長が
「行政ってのは最大のサービス業なんだ。
それなのに、デザインの視点が入っていないこと自体、
おかしな話だろう?」

って言ったんですよ。
それがビビっときて。

仕立屋:
うぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉかっけぇぇぇええええ市長ぉぉぉx!!!!!

新山:
それで商工政策課ってとこに
嘱託職員のような感じで入ったんですよねぇ。
しばらくは鯖江メガネファクトリーというサイトで
メガネ職人のことを発信してました。

仕立屋 古澤:
見てますよぉ〜・・・(ボソボソ)
*1 古澤は無類のメガネ好きです。
*2 鯖江の(メガネの)お仕事、待ってます。

新山:
極力マイナーな職人にスポットを当てようと。
取材対象の条件は、webのない職人たち
市のサーバーを使ってたので、今まで見えてなかった職人たちが
検索でめっちゃ上がってくるワケです。

行政は公平を保たなければいけないので、
どこか一社に肩入れはできない。
でも、嘱託職員やデザイナーとかタッグ組めば、
よりディープな情報が表に出せるじゃ無いかと。
どうですか!長浜市役所殿!!

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▲TSUGIのwebページより

新山:
僕らの仕事は産地に特化したデザイン事務所。
作り手と伴走しながらやっていく、
インタウンデザイナーとしています。

TSUGIがやってるのは、支える・作る・売る
地域の原石を見つけて、磨いて、伝えて
価値にしていきたいんです。
僕らはあくまでデザイナーだから、
作り手(職人)たちが主役。

その人たちが思考停止をせずに、
時代に合わせて考えられる。
そうやって行動できる会社が鯖江に何社増えるか、
それが大事だと思っています。

やっぱりモノを作っても販路にのせられないと
職人のことや文化を伝えるのは難しい。
だから自分たちでもブランドを持ってみたんです。
自分たちでつくったものを自分たちで売れば、
商売も体で覚えられる。

でもいくらなんでも全てはできないですからね。
自分たちは何が得意で、どの部分を担当するかを決めないと
実現したいことは前に進まない。
自分たちができることをするのが大事。
TSUGIはデザインと、それに加えて
あとちょっとなにかできるよね、と。
それで売っていくってところはもう少しできるかも、
ということでSAVA! STOREを始めたんです。

それでもやっぱり産地や町の人に主役がいることが重要
自分たちが全部をやるわけじゃなくて、一緒にやりましょう!
という姿勢と体制が大事ですよね。

TSUGIは産地のデザイン事務所。
じゃあ、仕立屋は何屋か。
一言で言い表す大切さは、何をやる人たちなのか、が
わかりやすく認識されること。

「仕立屋はこれが得意ですよ〜」
「でもここはあなたの方が得意ですよ〜」
「これはあの人たちに相談してみよう!」
「これやりたいのでタッグ組みましょう!」
と、お願いしやすくすることも大事。

鯖江市にはインテルやヤフーなどのIT関連会社が、
サテライトオフィスをオープンしているそう。
TSUGIのオフィスがある河和田地区には
これまでに70人ほどの移住者が増えたのだとか・・・!

TSUGIのような外から入ってきたプレイヤー。
産地で文化を形成してきた職人たち。
そしていい意味(もう一度言います、いい意味!)で
ブッ飛んでる市長や前のめりな行政職員。

3つの矢印が同じ目標に向かう
ことで
分散していたパワーが集まって、
瞬発力と爆発力と求心力が増したんだなぁ、と。

今回、突撃訪問にも関わらず新山さんを
独占させていただきました。
(土曜だったのに・・・スミマセン)
仕立屋と大黒屋で開発中のharicoについても
色々とアドバイスをもらい、TSUGIを後にしました。
あぁ、また来たい。
10月にTSUGI主催、RENEWがあります!!
みなさんぜひ!!

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*3 仕立屋はRENEW期間、参謀・古澤をメガネミュージアムに
連れていきます。
*4 仕立屋の参謀と縫子はご覧のように仲良しです。

TSUGI / ツギ
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