職人文化人類学

サムネイル

【埼玉行脚2人目】有限会社久保製紙 久保孝正さん 「和紙も作れる紙屋さん」

2022/2/4 職人行脚 Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

 埼玉県でつくられる小川和紙の中の細川紙を製造する技術が、ユネスコ政府間委員会により「和紙・日本の手漉き和紙技術」として「人類が守るべき無形文化遺産の代表的な一覧」に記載され、平成26年11月にはユネスコ無形文化遺産登録された、歴史と実績のある和紙です。

今回は、この産地で大正2年から工房を構える久保製紙の5代目久保孝正さんにお会いしてきました。
和紙は工業製品に近いものです。和紙を加工する人がいて、それが美術品なり工芸品なりになっていく」と話してくださった久保さんは、工房とは別に自社で紙販売をする店舗と、ギャラリーを運営されています。
和紙をつくるだけではなく、その使い手が活動できる場所と作品を発表する機会、といった様々な角度から和紙の普及を進めています。

和紙と呼ばれるものもつくるし、和紙の定義から外れたものもつくる。
しかし、紙という一線を超えない範囲で、ということは決めている。

とても柔軟でありながら、がっしりとした核を持って和紙製造をしている久保さんに和紙業界における課題やこれからの展望についてお話をお聞きしてきました。

 

「うちは和紙もつくれる紙屋さん」
〜有限会社久保製紙 久保孝正さんのお話。〜

「迅速的確に技術で応える紙づくり」

日本各地ある和紙の産地は、つくっているものに特徴がありますが、この地域は紙に特徴がないことが特徴です。江戸で急遽紙が必要になったときに遠くの産地へ頼むより、近くの紙漉きに頼む方が早いので、その注文にフレキシブルに対応してきた地域になります。
そのため、幅広い技術を修得した地域になります。強みは、ニーズに合わせて的確に対応できるというところです。

「紙屋として必要な問屋さん」

最近では、直接消費者と繋がって売買をする方がいいという考え方もあると思います。しかし、私たちがつくっている和紙は、その方法が向かないと感じています。
壁紙で使用する場合は、30~40枚程度納品します。1枚1000円程の商品の場合、一回の取引額が3~4万円。それを、直接消費者とやりとりをして、都度コミュニケーションが発生するかということを考えると・・・やはり、そこは流通してくれる問屋さんが1回で500枚、1000枚と扱ってくれる方がつくり手としては、制作に時間を使えます。

紙を扱うプロである問屋さんが、お客さんの相談事の対応してくれる安心感など、実は紙屋としては問屋さんとのお付き合いがとても良い場合もあります。

「和紙職人として生きていける紙の価格」

和紙は1日に何百枚と漉くことができます。紙を漉く木の枠の中にすだれが入っていて、そこから水が落ちます。そのスピードが、紙の出来上がるスピードなんです。ということは、上手い人がやっても下手な人がやっても、水槽内の原料等の濃度が同じであれば、水が落ちるスピードは自然のものだから一緒なんです。
どれだけ丁寧につくったところで、素材としての紙の値段の上限はある程度決まってしまいます。原料が同じで製法が同じです、見た目もそれなりに同じように見えます、という中で価格差をなかなか出しにくいんです。
ある和紙産地では高齢職人の価格設定に引っ張られると言っていました。後継者の育成事業などがあれば講師料の収入があり、和紙をつくって生活をしているわけではないため価格を上げないそうです。そうすると、若手でこれからキャリアを積む職人たちは価格を上げることは難しい、そういった現状があります。

「これからは、和紙の違いを理解してもらえるように」

紙づくりのこだわりについて、これまでつくり手が言わないから問屋も聞かなかったり、企業秘密として済ませてしまっていた時代もありましたが、現在私たちはインスタで情報公開をチェックリスト方式で行っています
原料の欄に「コウゾ 国産・中国・タイ」と書いて、そこにチェックを入れるようにしています。そうすると、「この紙はこういう選択肢の中からこの原料を選んだ」ということが客観的に見てわかると思います。逆に、いわゆる伝統的ではない原料の存在に気付いてもらうこともできるというように思っています。
情報公開を始めたのは、外国産の原料を使ったり洋紙の原料を入れたりすることが「悪」という風潮になることを避けるためです。
「こういう理由で外国産を使ってます」「外国産の原料を使うとこういうデメリットはあるけど、こういうメリットがある」ということまで知ってもらいたいな、と。
そして、こういう認識が広がっていけば、100円均一で販売されている和紙とそうでない和紙の価格差がなぜあるのか、ということを理解してもらえるようになると思っています。

有限会社久保製紙
〒355-0321 埼玉県比企郡小川町大字小川1091
TEL(売店):0493-72-2919

 

CONTACT お問い合わせ・ご相談