職人文化人類学

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【職人のリレー】第九走者 浜縮緬工業協同組合 松﨑修

2020/4/13 職人のリレー Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

生地を織るのは機屋、その生地の最後の顔を作るのが此処、浜縮緬工業協同組合。

浜縮緬工業協同組合とは、長浜の機屋が出資して運営されており、精練(※)を行う精練工場です。
検品をし、長浜でつくられた生地であることを証明する濱マークの判子を押すところ。

要は、生地に長濱ブランドの認定を行っているところが、この組合です。

※ 精練とは、
絹で織られた白生地は、セリシンとフィブロインというタンパク質で構成されています。織りあがった後に、セリシンを精練工場で落とすことによって、絹独特の光沢感、ぬめり感が出てくるのです。このセリシンという成分を落とす工程を担うのがこの浜縮緬工業協同組合です。

この組合で精練一筋40数年、
長浜全ての機屋の生地を知り尽くす男、
松﨑修。

「琵琶湖があるから濱のシルクが完成する。」と話す松﨑さん。
(くぅーカッコイイ。(私の心の声))

機屋とは違う視点を持った、つくり手のお話を聞いてまいりました。

実は松﨑さん、入社してから3日でこの仕事を辞めたかったそうです。
それでも40年続けてきたこの仕事には何があるのか!?
40年間の精練哲学をみなさまにお伝えしていきたいと思います。

まず、先に言いたい!カッコいい!渋い!もう、ベタ褒めですw

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↑夕方の琵琶湖です。最高です。覗いているのは私です。

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↑生地を熱湯に何度も入れます。そのタイミング、温度、時間全てが生地によって異なり、様子を見ながら工程を進めていきます。

「精練のやり方は機屋それぞれ。
ノウハウが機屋によっても生地によっても違う。」

縮緬には「古代」「一越」「三越」「東雲」…等々、生地の種類があります。
糸の撚り方、生地の織り方によって種類が異なります。これをベースに各社自慢の生地を織り上げています。

長浜市内にある数件の機屋では、同じ「古代縮緬」という名前の生地であっても、機屋それぞれによって特徴が異なってくるとのこと。
そうなると、組合では生地それぞれの特徴を把握して、最高の仕上がりになる練り方を考え出すのです。

「同じ生地はない、家が違えば生地の表情は変わる」と、おっしゃっていました。
生地の特徴を最大限に引き出すのがここにいる精練職人たちなのです。

因みに生地の集まってくる生地の種類は約230種程。
ここには長浜の生地の全てが詰まっています!!!!

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↑精練をする場所です。熱湯の入った釜がたくさんあり、蒸気が充満し、何とも言えない神秘的な空間が広がっていました。

「精練する以上、琵琶湖の水を使う。
琵琶湖があるから練れる。
琵琶湖がなければ精練所は動かせない。」

精練するには水が必要です。その水は琵琶湖の沖合1kmから引っ張ってきて、
精練所内にある装置によって完全体の軟水にし、その水を精練に使用しています。

元々琵琶湖は天然の軟水です。それを完全軟水にするのです。
完全なる軟水はヌルヌルします。これは、擦れ防止のために必要なことだそうです。
絹は濡れている状態で擦れると生地が傷んでしまい、絹独特の風合いが損なわれてしまいます。
摩擦ができるだけ起こらないようにするために完全軟水にする必要があるのです。

水へのこだわりはとても強い。
それは、水の状態こそが、長浜シルクの高品質というブランドをつくりあげてきた、大きな要素の一つだからなのです。

あぁ、琵琶湖、すごいな…

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↑精練し終わって、濡れた状態の生地です。縮緬生地なのでシワシワっと生地が波打っています。(美味しそうに見えるのは、私だけかしら…)

「絹は生き物、その工程それぞれに気配りが必要。」

ここ精練所では、着物生地の需要が多かった頃のピーク時には100人程の従業員がいたそうです。
しかし、時代が変化し、現在は10人。

昔、人数が多かった頃は、検品担当、精錬担当、というように各工程を専門的に担当していたそうです。
今はみんなそれぞれがオールマイティーに生地が扱えることが求められています。
精練だけできてもだめ。全ての工程でプロフェッショナルにならなくてはいけない。

ここは生地の品質を高めるプロフェッショナルたちの集団なのです。

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↑精練後、この機械に通して、乾燥させて、ピンっと伸ばしていきます。

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↑ピンっと伸ばされた布の端を引っ張って、幅出しをし整えます。精練によって生地が縮んでいるので、ここで最後布を整えます。

「ここは機屋の持ち物、機屋あっての組合!
ここ生地はこの精練の工程がないとできない!」

機屋が元気でいてくれないと、ここに入ってくる生地量が減ります。減ってくるのと比例して組合の稼動も減っていってしまいます。
精練所だけで生産が完結することはありません。組合は長浜の機屋の一部である為、機屋と運命共同体と言っても過言ではありません!

松﨑さんはおっしゃっていました。
「全部出して、みんなに知ってほしい!」
なので、私たちのインタビューも快く引き受けてくださいました。

昔は小学校の生徒の工場見学の受け入れをしていたそうです。しかし、対応ができなくなってしまった現在は頻繁には行えないそう。
「でも知ってもらうことが大事だと思っている。」

お話を伺っていても、松﨑さんの言葉の端々から、長浜だからできるこの品質の高さ、長浜の生地がどう素晴らしいのか、私たちは何を残し、何を伝えるべきなのかという、確固たる強い思いを感じました!!

機屋とは違う視点で、長浜のシルクと向き合っているからこそ言える言葉なのかもしれません。

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↑生地に傷がないか、何度もチェックをします。長浜クオリティーの最後の要です。

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↑検品後、生地のランクを表示する判子と、長浜でつくられたことを証明する濱マークを押します。

「生地のプロに手にとって見て欲しい、
そして絹織物の代表的織物になりたい!」

松﨑さんや組合は機屋ではありません。
布をつくる工程では、機織りや染色の工程がわかりやすく、認識されやすい部分でもあります。
しかし、市場に出てくるまでのルートを辿ってみると、松﨑さんのような職人がいるから、日本のものづくりの質の高さがこれまで保たれているのだと感じます。

土地、人、全てを含んだ長浜全体で、長浜のシルクは生み出されていました。
そして、なかなかスポットライトの当たりにくい精練職人を多くの人たちに知っていただきたい。
長浜シルクの、スーパーキーパーソン!!

長浜の絹の生地産地の在り方を考え、この土地を、自然を、とても大事に思い、誰よりも長浜シルクの未来を強く思っているのが、松﨑さんでした。

浜縮緬工業協同組合
526-0061 滋賀県長浜市祇園町871番地
TEL 0749-62-4011
FAX 0749-65-2695
E-mail info@hamachirimen.jp
浜縮緬工業協同組合WEB  http://www.hamachirimen.jp/index.html
長濱シルクWEB   https://nagahama-silk.jp/

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↑布を包む濱マークの入った包装紙です。かっこいい。

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