職人文化人類学

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【職人のリレー】第八走者 滋賀県東北部工業技術センター 岡田倫子

2019/4/17 職人のリレー Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

witter:ワタナベ

今回は第八走者、
滋賀県東北部工業技術センター(以下技術センター)
岡田倫子さん

何故、現場の職人から技術センターの岡田さんへバトンが渡ったかと言いますと、
現場の職人の砦となってくれているのが岡田さんだからです!

岡田さん、とても素敵なんですよ!本当に。
そして、長浜の職人達から愛されている。
そして、私も大好き。
笑顔が可愛く、おしゃれな岡田さん。
いつも、歯に衣着せぬ言葉で長浜シルクへの愛を語ってくれます

私は忘れもしません。
最初岡田さんとお会いした時の言葉…
「長浜の織物は顕微鏡で見ても美しい」
これを聞いてさらに長浜のシルクに心引かれ始めたのです。

それでは走りますっ!

技術センターとは…
岡田さんからみた長浜シルクとは…
そして、岡田さんのshokuninとは…

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仕立屋と職人 銀髪オンナ ワタナベユカリ(以下 ユカリ):
あたし達が調べてもわからないことを
いつも岡田さんに聞きに来て、教えていただいているのですが、
技術センターがどんなところかっていうのを
ちゃんとお聞きしたことがなかったような…

 

技術センター 岡田倫子(以下 岡田):
あ、ご説明してなかったですね…(笑)
技術センターっていう存在は元々、公設試験研究所(以下公設試)っていう
日本特有の機関で、全国の都道府県と政令指定都市にあるんですよ。
日本って元々技術力が凄いと言われているじゃないですか。
戦争後とかで復興が早かったのは公設試が地域の中小企業と一緒に活動していたからという説があるらしくって。
普通の会社が電子顕微鏡とかそういう機材ってなかなか買えないから、
公設試にそういうのを置いて一緒に研究したり技術開発したりできるから、
そういうのが日本の技術力を支えていたんだ!
っていう話を聞きました。

元々は地場産業を支援するんです。

いやー…本当に、長浜に来てから知ることがいっぱいです。

公設試験研究所は日本全国にあり、
それぞれ機関の名称は異なるようですが
地場産業の技術的支援する地方機関のことです。

此処、長浜の技術センターの主な役割は
・技術相談
・試験機の利用
・依頼試験分析
・研究開発
・人材育成
・情報発信
とのこと。

化学や環境技術のことも研究しているのですが、
繊維にも特化したセンターです。

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岡田さんの具体的なお仕事内容の一つは、
機屋の難物の相談を受け、分析し、
改良していくための技術的アドバイスをします。
(難物とは白生地が織りあがった時に傷があったり
染めた時に染めムラができてしまう反物のことです。)

繊維工学を専攻された岡田さんは
ミクロレベルで長浜シルクを分析するエキスパートなのです。
ちなみに、機織りもできるスーパーマルチプレイヤーです。

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岡田:
長浜は技術力が高いので難物は少なくて、
持ち込まれたものも未だに初めてみる難物ばかりで、
実践して解明していくしかないんですよ。

何故、長浜の機屋の技術力が高いのか。
何故、顕微鏡で見ても美しい生地をつくってこれたのか。
何故、難物の改善に力を入れるのか。

これには理由がありました。
まず、技術センターでの工程の話をサッと追ってみます!!

製造工程で反物に難物が出てしまった
例えば…染めていたらムラが出た、シボにムラが出た…等

機屋が難物を技術センターへ持ち込む

(ここからが岡田さんの出番ですっ!)
技術センターで何が原因か追求する
追求方法は…
・光を当て透かしてみたり、
・ブラックライトを当ててみたり、
・顕微鏡でみたり、
・匂いを嗅いでみたり…(←これ、結構すごい)
(見せてもらいましたが肉眼で見ても全くわかりません…)

そして、原因を突き止める!

解決策を探る!!

もう、まるで探偵です。

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長浜の機屋での難物発生は少ない、
それなのに改善をトコトン突き詰める!
この理由は、呉服業界のシステムにありました。

例えば…
反物を染め終わり刺繍の工程まで行った時、
その時に何か織りに関しての問題が発覚したら原因となった工程をした
機屋がそこまでの工賃や材料費など弁償しなければならない、
というルールがあるそうです。

さらに「京都市の繊維担当の職員でも追うのが難しいくらい、
反物はあっちへ行って、こっちへ行って…」
それくらい着物完成までの工程が複雑だそうです。

そのため、長浜の機屋は自分達を守るために技術力をあげ、
問題が起こらない布を作り上げることに注力してきた
のです。
川上となる機屋が完璧な状態で出荷すること、
それが、長浜のシルクの価値に繋がったのです。

これが、顕微鏡レベルで美しい布をつくりあげることになった理由でした。

この、完璧な状態をつくる影には問題を徹底的に分析し、原因を見つけ、
解決策を職人と一緒に探し出している岡田さんがいたのです。

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声を大にして伝えたいことトップ3 

その1 機屋の当たり前は当たり前じゃない!

ユカリ:
今まで、長浜のシルクや職人を見てきたからこそ言える、
外へ向かって、声を大にして伝えたい事ってありますか?

岡田:
長浜がすごいなって最初に思ったのは…
機屋に入って来たときは何でもない27デニールの綛になった生糸なのに
次出て行くときは生地になっているじゃないですか!
全部の工程を一社でやっている、あらゆる装置が揃ってて、
当たり前に自社で撚糸をして生地を作っているところで機屋によって、
糸の構成や撚り数を変えて機屋オリジナルの生地を作っているんですよ!

一社で完結しているってことがものすごい強みやし、これって普通だったらあり得ない事だなって。

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声を大にして伝えたいことトップ3
その2 単純じゃない光沢!

岡田:
こんなに綺麗な生地ないぞ!
ってことを言いたいです!!
思うんですけど、シルクって光沢あるって言わはるじゃないですか。
それって糸自体がシルクってツルッとしてるから光沢があるけど、
縮緬って表面デコボコなのにあんなに光沢があるんです!!

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声を大にして伝えたいことトップ3
その3 機屋への愛

岡田:
産地の人はみんなすごくいい人で…
私が技術センターに入って最初に機屋さん拶回りをした時
「新しい人が入ってきてくれた」って言ってくれはって、
それで、機屋のみんなで私にいろんなことを教えてくれはったんですよ。
それが嬉しかったから今頑張れるっていうのもあるし、
みんなで私のことを育ててくれはったっていうのが、
ここの産地やったからそうやったんかなーって思ったりしますね。

機屋に対してのリスペクト、縮緬の奥深さ、長浜の職人達との関係性。

岡田さんがここ長浜で築き上げたものが何にも計れないものだと感じました。感動っ。

私たち仕立屋と職人が現場に入って聞ける話と
岡田さんが集められる現場の声はやはり違います。
それは岡田さんが真摯に職人のものづくりと向き合い、
職人の声を拾い上げ、外の世界から守ってくれる術を
確実に示してくれる存在だからだと思います。

岡田さんがいてくれることは産地にとっても、
外から来たあたしたちにとってもとても心強い存在なのです。
それが岡田さんです。

そして、最後に定番のあの質問を…

岡田さんの思うShokuninとは?

岡田:
私、子供の時職人になりたかったんですけど…

ユカリ:
(意外な一面っ!)

岡田:
一人で黙々と一つのことに打ち込んでいる姿がかっこいいと思って。
例えば研究だと過去の人がやってきた文献とか知識とか技術とか
明確になっているものをもとに、次に何をすべきか、って進めていくけれど
職人って、知識だけじゃなくって、文で書いたり数値で出したりできないことを体現して発展している人が職人…

自分の経験から、自分だけの方法を生み出す、
そのノウハウを持っているというのが職人
だと思うんです!

「自分はどっちかというと研究者というより職人なんです。」
と、おっしゃる岡田さんの研究手法は
職人のように経験を積み重ね、実証をする。
そして、とことん解明していくという、
研究者と技術者と職人のハイブリッドです。

岡田さんの可愛らしい雰囲気から繰り出される
クリティカルヒット級な解決術に
みなさん、圧倒されること間違いありません。

と、いう今回の
長浜の職人の陰には技術センターの岡田さんアリっ!
という見えざる産地のリレーとなりました。

実は、かなり短く編集しております。
大爆笑連続の楽しいインタビューをさせていただきました。
楽しさを伝えすぎると記事が膨大な量になるので、
長浜シルクと岡田さんの思いについてピックアップしました。
むしろ、動画配信の方が良かったのか…と、思うくらい。

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岡田さんの最近の研究が取り上げられているので、是非っ↓
読売新聞オンライン「湖北の絹織物 技法復活

最後の、最後に…
いつも、私たちが技術センターに行くと顔を出してくれる三宅参事。
技術職のトップである三宅参事。
仕立屋と職人のことをいつも気にかけていただいておりますっ!
嬉しい。

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振り向くとそこに、三宅参事がいました…(笑)

滋賀県東北部工業技術センター 長浜庁舎
https://www.hik.shiga-irc.go.jp/
滋賀県長浜市三ツ矢元町27-39
TEL 0749-62-1492

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