職人文化人類学

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【広島行脚3人目】株式会社イワタ木工 代表取締役 岩田知真さん 「語れないものは付加価値が足りない」

2021/8/26 職人行脚 Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

広島行脚3人目です。
今回は世界中で大人気となっているけん玉の立役者で、その界隈では知らない人はいない、株式会社イワタ木工の代表取締役 岩田知真さんにお会いしてきました。

けん玉界の常識を変え、技のクオリティーを上げるための精度の高いけん玉をつくり、プレイヤーの価値感を高め、世界のけん玉ブームの火付け役となった方です。

「生存できるものづくり」のために価値を伝えるプレゼンテーションを大事に考える経営者の顔と、次世代に残るような宝物となるものづくりを追求する職人の顔をあわせ持つ岩田さん。
既存の枠組みを超える挑戦と、トップに立つ信念についてお話を聞いてきました。

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「語れないものは付加価値が足りない」
〜株式会社イワタ木工の代表取締役 岩田知真さんのお話。〜

「けん玉をつくり、自分たちで自分たちを守っていく」

〜これまで〜

これまでは、「千円以上したら高い」という認識で、国内でのけん玉の価値はかなり低いとされていました。

初めてけん玉を販売した時、きちんと利益を出し、自分たちが生活できるようにするために、他のけん玉より200円価格を上げて販売しました。そうしたら、ブーイングが起きて・・・「なんでこんなに高いの?」「けん玉でしょ?」と。
しかし、千円以下で販売すると、日本のけん玉をつくる会社は、ほとんどなくなってしまいます。千円では作って、売って、利益が出ずそれだけになってしまう。宣伝もできずに、売った後に何も残らない。それでは後継者を育てる費用も、設備投資する費用もない、雇用した人を安全安心に雇うこともできない。そうなっていくと、伝統や伝承ということは、もう一切できません。

これでは「いいものをつくろう!」と思う職人さんが減るのは当たり前かなと僕は思いました。

〜プレイヤー目線のものづくり〜

一時期、けん玉の生産を辞めた事がありました。その後『夢元無双けん玉』という形でけん玉事業を復活させたのですが、その際に一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク(註1)と手を組み、「プレイヤー目線」でけん玉をつくることに重きを置きました。そして、けん玉の価値自体が上がるようにプレイヤーの意識改革も同時に行いました。

その復活時に、けん玉の販売価格を一気に上げたのです。やはり、自分たちの子供を養っていかなければならない、という思いがまず第一にありました。それと、もう一つ。自分たちがこのものづくりを次世代に繋げることを考えたときに、業界の当たり前を変えなければこの産業が先細りになっていってしまうという懸念があったからです。

この問題を打破するために、国際特許を取得し世界で勝負しようと考えました。そして、欧州最大級のインテリア&デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」への出展を続け、世界各地に販売店を持つことができました。

(註1)一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク
けん玉ワールドカップ®の開催や、けん玉検定®の企画運営、けん玉先生®という指導者資格の発行等に代表される諸活動を通して、世界中の人々がけん玉を楽しむための環境づくりに取り組んでいる団体です。

〜法人にすること〜

父の跡を継いだのですが、僕は会社を「法人」の形態にしたいと思い分社という形をとりました。現在も父は父で木工の事業をやっています。
父の時代は、それまでのやり方で切り抜けられたと思います。しかし、その時代は変わっていき、変化をどう乗り切るか、乗り切った上で、その時代の波に乗りながら自分たちのものづくりをどう表現するか、というところにシフトチェンジしていかなければなりません。

それも含めて、株式会社にすることによって、自分自身、家族、従業員を守ることができると考えました。個人事業だと、できる範囲が狭まってしまいます。安全安心の中で自分たちと従業員の生活を守っていくために、僕は株式会社にした方がいいと思い、この選択をしました。

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(△IWATA MUGEN MUSOU

「語れないものは付加価値が足りない」

世界で一番精度の高い、世界で一番綺麗なけん玉を作ろうと思っています。
けん玉はチェスのように「遊べるオブジェ」であり、飾って置いてあってもインテリアとしてかっこいい、しかもゲームとしても使えるものです。

なぜ「遊べるオブジェ」なのかというと、使う時に「これしか使えない」ではなくて「こうも使える」という答えを持っておきたいのです。それが付加価値になると思ってます。「所有する、使う」「所有する、飾る」どのような選択肢でも満足いくような製品にしたいと思い、デザインを考えています。

販売では特にBtoBが多いため、お客さまがうちの商品を持って帰った時に、ご自身の口で商品のことを語っていただかなければなりません。ビジュアルが美しいだけではなく、なぜ美しいのか、なぜこの形なのか、ということを語れることも付加価値だと思っています。そのため対話を大事にし、納得した上で購入をしてもらっています。

商品について語れるということは、それだけの付加価値がある商品だということです。

「過去の自分をリスペクトする」

けん玉を広げることもしてきました。僕が大学生の時に、地元の小学校でけん玉を教えていました。その時に教えた小学生がけん玉の楽しさを忘れずに覚えていてくれて、高校になり就職を考えた時に「イワタ木工に就職しよう」とうちの会社に来てくれました。教えた日から10年後のことです。

経営者は孤独です。孤独なんですけど、それでも過去に僕がやったことは、少しづつ結果が出てきています
過去の自分をリスペクトしてあげる、ということも大切なのかなと最近思いました。

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株式会社イワタ木工
https://iwata.fun/
広島県廿日市市峠245-85
TEL 0829-74-1558

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