職人文化人類学

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【職人のリレー(後編)】第二走者 有限会社 吉正織物工場 吉田美恵子

2018/5/28 職人のリレー Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

witer:石井

東京のデザイン会社をやめてから数年。
今になって思う。
その頃はつくることのみに集中できる環境を用意されていた。
仕事はきつくても、仕事を取ってきたり、価格交渉をしたり、
経費をまとめたりしなくてもよかった。
今その全てをやらなければならない(とは言え生きる力はつく気がする)と
なると、つくること以外の部分を担っていてくれた人たちの偉大さを
思い知る・・・

伝統工芸職人はつくり続けながらも、その他の仕事はどうしてるんだろう。
後編は、つくる男と魅せる女の役割。
そこから見る川上と川下の関係について!
引き続き、美恵子さん、よろしくお願いします!

仕立屋と職人:石井(以下:石井)
川上川下という風によく表現しますが、
取引先(染色職人や問屋、呉服屋)は男ばっかり
でもその先に女性のユーザーがたくさんいるわけですよね。
つくっている段階から、ものづくりに携わっている女性たちの
「ここのこれがいいんだよ〜」
という声がそのまま女性ユーザーに届くといいですよね。

有限会社吉正織物工場 吉田美恵子:(以下:美恵子)
そうそう、声がなかなか届かないですよね。

石井:
たとえば、何があるとその声が届きやすくなるんでしょうね。
ここ(前編)まで美恵子さんに聞いている話だけでも、
新しい発見ってたくさんあると思うんですよね。

美恵子:
自分で染めもやって売って〜、とか一貫でやってたらいいんですけどね。
(私たちは白生地をつくっているけど)消費者の方たちはまず柄に
目がいきますしね。

ふだん、正直そこまで考える余裕はなくて。
でもネット販売で着物類を買ってる人って結構いるみたいで、
それはあるのかもしれないな、と思いますよね。

でも見てるとフシギに思うところもあって、
このくらいの原材料でやって、このくらいの行程で、
染め上がって・・・なんでこの金額で売れるんやろう・・・って。

オンライン上では比較的カンタンに自分たちで売り場を持てる。
既存の売り場でなくても、つくり手の意図やこだわりといったストーリーも
自由に発信できるというメリットは確かにある。
それと同時に、実物を手にとって確認できないというユーザーの
不安もあるし、そもそも着物のように高価なものを、
オンラインでポチッと購入する人はそう多くないだろう。

近頃ではアパレルブランドを中心に
Transparency(流通経路や製造過程の透明化)や
Traceability(どのように製造されているかユーザーが確認できること)
が重要視されてきている。
和装業界はまだ、これとは対極の位置にあるのではないだろうか。

参考に流通過程の金額推移を表記いているEverlaneという
海外アパレルブランドを紹介します。

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石井:
美恵子さんは、問屋さんとのやり取りもされるんですか?

美恵子:
わたしはしてないですね。
金額のこととか、言葉の駆け引きもあるので、
わたしもちょっとコワイんですよ。
ふだん表に出てないから勝手もわからないし、
失礼なこと言ってしまったらどうしよう、と思って。

石井:
伝統的なビジネスとしての場面は、社長が出た方がやりやすいんですかね。
でも、つくっている感覚的な部分って、女職人である美恵子さんの方が
ユーザーに伝わる
んじゃないかな、とも思うんでうよね。
力を発揮するシーンが違うのかもしれませんね。

これまで、取引などで社長がでてくる場面はもうすでにあった。
これからは、美恵子さんがユーザーに直接声を届ける場面をつくれると
2本柱でより広くつくり手の声を届けられる。
そうなるともっといいのかな、と思いました。

関東生まれ関東育ちの自分からしても、
滋賀や京都の商人文化はなかなかマッチョなものがある。
男の中でもヒエラルキーが見え隠れする。
でも、工房を見渡せば圧倒的に女職人の方が多い。
中には技術力が高すぎるあまりに、有名なスーパーお母さんもいるようだ。

前編でユカリが語った、男しか前に出てこない文化というのは
この京の都から全国へ展開していく流通経済の中でつくり上げられたものなのだろう。

石井:
美恵子さんが話を聞いて見たい人っていますか?
他の職人でも、呉服屋さんでも、お客さんでも。

美恵子:
わたし、いろんな行程の人と話をして見たいです。
ここを(反物が)出発して・・・。
どういう風に皆さんの手に渡って、どういう風にうちの生地が扱われて、
売られているのか、って先が気になりますよね。

デパートにいくと、浜ちりめんを使った加賀友禅が200万円とかで
売ってるわけですよ。
とうにのれんを下ろして、もう会社がないところの生地だったんです、
それが。
会社がなくなっても、こうして品物だけが動いてるんだなぁ・・・って。
もうつくっていないのに、商品だけがお店で買われるのを待っている。
そう考えると複雑な気持ちっていうか、
寂しい気持ちになりますよね・・・。
だから、手を離れたあとのことが気になるんです。

以前、浜ちりめんの職人は誰からの評価を得たいものなんですか?
と聞いたら、染色職人だ、という答えが返ってきたことがあった。
長浜で織られた白い生地は問屋が京都や加賀の染色職人の元へ運んでいく。
そこで姿を変え、仕立てに回されて、全国の呉服屋かデパートに並ぶ。
浜ちりめん職人が直接関わりを持つのは、問屋と染色職人になる。
ユーザーが手に入れるまで遠い道のりすぎて、浜ちりめん職人には
その先を想像するのも難しいのだ。

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美恵子:
問屋さんとは実は少し距離があるんですよね。
つくり手のことをよく考えて話をしてくれる人も中にはいるんですけれど、
会社の方針もあるでしょうし。

石井:
問屋さんとはどんなお話をされるんですか?

美恵子:
やっぱり品物の話ですね。
昔はよく、問屋さんがうち(工房)にきてくださったんですけどね。
今はこっちから社長が行きますよ。商品扱ってください、って。
こっちが足を運ぶので、わたしは問屋さんに会うことがめったになくなった。だからわたしは世間がわからなくなったんです。
こちらから足を運ばないと喋れなくなりましたからね。

石井:
問屋さんがそうやって市場の流行や、評価の話を持ってきて
工房で情報を得ていたわけですね。

この製品がユーザーの手に届くまでの長い道のりで、
どれくらい価格が上がっていくんでしょうね。
和装業界がここをクリアにしないと、商品価格が高い、
お客さんも手を出しづらい、でも産地の職人は薄給だ、
という循環は変わらないでしょうね。

美恵子:
いったい、いつからこうなったのか、知りたいですよ。
日本、とくに和装業界は独特だと思います。

産地が苦しくなって、のれんを下ろしてしまったら、
もちろんその先の問屋や売り場も共倒れしてしまう。
ただ、現状は産地の職人が、売り場の販売価格や関連会社の取り分を
差し引いた額を逆算していった先の、一番小さい額で生産を
している形になっている。

この形態は産地のつくり手や文化を守るのに適しているのだろうか。
すぐには変わることは難しいとは思うが、業界全体が見直ししないと、
産地はもうそろそろもたない。

問屋というのはどういう商売なのか。
市場の流行やニーズを掴み、売り場や職人に提案し、商品を橋渡しする。
しかしいつからか、職人は問屋に商品を下ろさないとモノが売れない、
という条件のもと、働くようになってしまった。そう感じることは多い。

でも、美恵子さんや他の女職人が
「これはこうして使ったり着てみたりしたら素敵ですよ。」
とユーザーに直接語りかける場ができたら、
少しずつ状況は変わるのではないか。

川上と川下の中に登場する多くの人物。
長年一緒にやっていた働き方の関係があるからこそ、
それを壊さないように、言えないこともたくさんある。
今回のインタビューではそれを感じ取れた。

このあたりで問屋さんの話を聞いてみたい。

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