職人文化人類学

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【職人のリレー(前編)】第二走者 有限会社 吉正織物工場 吉田美恵子

2018/5/12 職人のリレー Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

関東生まれ関東育ちのワタナベユカリです。
去年の夏に初めて関西圏に引っ越してきた関西新参者です。
そして、長浜市木之本町に仕立屋邸を構えて気づいたこと。

それは、
お会いするのが、いつも町の男性衆。
どこへ行っても女性陣になかなか会えない…

なぜだ!!!!なぜなんだ!!!!!

仕事でお会いする人も、町内のことにしても、イベントに参加しても
なぜか男性が圧倒的に多い、という事実。

そんな町だからこそ、ここ長浜で生きる女性の話を聞きたい。

ということで、前回の職人のリレー第一走者で走っていただいた
有限会社吉田織物工場吉田社長の奥様であり、母でもあり、職人でもある、
吉田美恵子さんに第二走者としてお話を伺ってきた。

「今はもうしていないけれど、昔は母方の祖母が西陣織をしていた」
というお家に生まれ、京都から嫁いでこられた美恵子さん。
浜ちりめんの世界に生きる美恵子さんの生き様とは…

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全てにおいて女性は控えめ

仕立屋と職人 ワタナベユカリ(以下W):
この地域は特に男性が表舞台に立つことが多いから、
ぜひ、女性のお話をお聞きしたくて。

有限会社吉田織物工場 吉田美恵子(以下M):
それはこの町の特徴ですね。全てにおいて女性は控えめですね。
実際はしっかりした女の人たちはたくさんいはるんですけどね。
そういう風習というのは、徐々にわかってきました。
まだまだ受け入れられないことが多いですけど…

時代とともに変わってきてはいるんですけど、
まだまだ考え方は古いですよ。

W:
嫁がれてから、ずっとここで仕事をしているんですか?

M:
子供がお腹にいる時はおっきいお腹しながら、管巻き(くだまき: 糸を巻きつけること)とか教えてもらって。
子供が生まれてからの仕事は検査です。
浜縮緬工業協同組合から精練(※以下詳細)されて、
練り上がった反物を出荷前に検査する仕事をしています。

精練(※)
各工場で織られた反物は浜縮緬工業協同組合の精練工場へ出される。
絹はセリシンというタンパク質に覆われていて、
セリシンがついている状態の反物を生機(きばた)と言い、
パッリパリで硬い。
だが、セリシンを落とすことによってとても滑らかになり、
絹独特の風合いと光沢感が出る。

検査は生機の状態と精練後の二回行う。
その検査は、生地をルーペで覗いて、糸一本見て判断し、糸一本を直す。
そんなミクロな世界で修正する。

この検査がないと出荷されない。
最後の関門でありとても重要な仕事。
忍耐と根気、集中力がものをいう。

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全てにおいてプレッシャーがある

M:
糸一本一本見れるようになるにも慣れてないと見れない。
だから働きに来てもすぐに即戦力になれるという仕事ではないですね。
3〜4年はかかるかもしれませんね。

W:
これは女性の仕事なんですか?

M:
昔は主人もしていたんですよ。
だから、私はこの仕事を主人に教えてもらって。
でも、どの行程もパッときてパッとできる仕事ではないですね。
だから練り上がりは見えるけど生機は見えないです。

W:
細かい仕事だから、精神的にかなりプレッシャーがかかりますよね?

M:
問屋さんにも難物出すと信用がなくなってしまうんですよ。
「この工場はあかんな」と。
そしたら注文がなくなってしまうから。
だから、全てにおいてプレッシャーがありますね。

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白生地にはランクが4段階ある。
• A反(正反/一等品)
• AB反(一等品)
• B反(二等品)
• C反(格外)。

これは浜縮緬工業協同組合が傷などの問題がないかを検査して
反物の端に判子を押すのだ。

A反とAB反は同じ一等品であっても、A反は主に友禅染めに使える反物。
AB反は全体に柄が入っている着物か、疵(きず)のあるところを裁ち合わせて着物。C反にまでなると、どう転んでも着物の反物としては使えない。
といった具合に分類されるそうだ。

これは着物に仕立てることを前提として判断している基準。

ただ、生産においてC反(格外品)が出ることはほとんどないという。
もし格外品が出てしまっても市場に出ることはない。
市場に出したとしても、二束三文の大赤字になるし、
取引先との信用問題に関わるからだ。

洋装用の生地の場合、もし一ヶ所傷があっても
正反と同じ値段で取引される。

そこの傷以外はA反と同じレベルの品質の高さを持っているからだ。
これは和裁(直線裁ち)と洋裁(曲線裁ち)の違いなのだろう。

浜ちりめんを「過剰なまでに高品質」と何度か耳にしたことがある。
和装業界の判別の基準が最高品質の浜ちりめんをつくりあげたとも言えるが
その反面、ちょっとの傷さえも許されないというとても厳しい世界だ。

最高品質の白生地は、機場を支えている女性たちの粋を極めた技と
今まで築いてきた浜ちりめんの確固たる品質管理の賜物だ。

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前例がなかった

W:
職人として働きながらも社長の奥様として
表に出られることもあるんですよね?

M:
表に出るってことはあんまりなくて、
求評会(※以下詳細)に出るようになったのは、
主人が理事長になってからですね。
4、5年前からデビューです。

求評会(※)
産地が行う展示会のことで、問屋と商談を行うために開催される。
浜ちりめんは浜縮緬工業協同組合が京都で年に一度、展示会を行っている。

M:
今まで理事長になったお家の奥様は会社の仕事をされていないんです。
だから理事長の妻が求評会に行くっていうのは前例がなかったみたい。
私はそんなこと知らなくて、
夫を助けなきゃと思って行っただけなので。

W:
去年に求評会に行かせていただいたんですけど、
とても独特な展示会ですよね。

M:
柄のない真っ白な布が並んでますからね。
私が行くようになってからは、「染まったらこうなるよ」って
私の着物をかけたりして華やかになったかなと。

何もわからず、求評会に飛び込んでいったあたしと石井…
「おや、来て大丈夫だったのか!?」と思ったほど、
今まで行った展示会とは違う空気が流れていて、
終始ドキドキしていたことは忘れもしない。

私はその時は浜ちりめんの「は」の字もわからない状態だったから、
こういう世界なのか、と、現実を把握するのにせいいっぱいだった。

求評会は商談のための展示会だから、特に男性が多い。
そして一般消費者が気軽に入れる感じでもない。

しかし、そこには女性ならではの華やかさを演出する美恵子さんの姿があった。
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女性は一歩下がってお淑やかになんて言葉はあたしの中の辞書にはなく、
全て心の赴くまま衝動に突き動かされながら生きてきた。
(だからモテナイのか…?)

そして、「女だから…」という、
性別ありきで判断されることが嫌いだった。
(未だに嫌いっ)

だが、女だからこそ見えること、男だから攻められるところがある。
それぞれの視点があるからこそ世界が成り立っている。

美恵子さんは社長であり旦那さんである吉田和生さんを粛々と支え、
白生地の中にさりげなく女性の視点を入れながら
細かな手仕事で吉正織物工場の浜ちりめんをつくりあげてきた。

それは浜ちりめんの世界の既成概念がなかったからこそ
できたことなのかもしれない。

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まだまだ、後編へ続く…

有限会社 吉正織物工場
http://www.yoshimasa-orimono.jp/
〒526-0014 滋賀県長浜市口分田町629番地
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