職人文化人類学

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誰に、何を届けるのか?そして、文化とは?〜短期的成果と長期的職人文化人類学のアプローチ〜

2021/4/19 職人文化人類学の構築 Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

前回のふりかえり

前回の記事 では、職人にアンケートを行った結果「長期より短期で結果を出さないと先が見えない」という事を改めて痛感するわけです。

短期を超えて長期がある。まぁ当たり前のことですが…

私たちは長期ばかり見据えて職人文化人類学を組んでおりました。職人文化人類学を受け皿にしつつ、短期的に職人たちの課題にアプローチする秘技を繰り出さねば、職人と一緒に長期的なプランを立てることはできません。

そこで!!前回の記事の最後で書いておりました。

「収益をあげることがいまの状況を打開する」と言っても、どういう風に売れていくといいのか。
これまで職人の方々とご一緒させていただいてきて、「ただ売れていけばいい」という話ではない気がするのです。①何を誰に②どうやって売っていくといいのか③文化をつなぐとはどういうことか、をしっかり理解したいと思います。

そのお話を聞かせていただいたのは、越前和紙筆頭職人!
株式会社滝製紙所瀧 英晃さんです。

越前和紙は、襖紙に代表される大きなサイズの和紙を流し漉きで制作する産地として、知られています。その中の一つ、明治8年創業の株式会社滝製紙所。その七代当主になる瀧さんは、襖紙を始め、オランダ人アーティストのテオ・ヤンセン氏と作品のコラボレーションや、新しい創作和紙を製作しホテルや店舗等での内装材として使用されるといった実績を持つ、和紙業界のトップランナーです。

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瀧さんに聞きたいこと

さて、今回瀧さんにお聞きしたかったことは、

・職人はいまどのような状況に置かれている!?顧客との関係性
・職人はいま何を必要としているのか
・職人は直面する課題を解決した後どうしたいのか
・「文化」「文化継承」とはどういうことなのか!?

それでは、お話を聞いてみましょう。

瀧さんへディープなインタビュー

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仕立屋>瀧さんのお客さんのこと、売り方について、売るを手段として何を伝えていきたいかをお聞きしたいと思っております!現在、メインのお客さまはどなたになるんでしょうか?

瀧 英晃さん(以下 瀧)>メインの卸先は、和紙の問屋さんになり、内装用の創作和紙は東京の問屋さんや地元の問屋さんから受注があります。
問屋さんも市場の得手不得手があるので、これまでのお付き合いのある問屋さんへ新商品の卸がなかなか難しいようであれば、別の売り先を持っている新しい問屋さんと関係を増やしていったりもします。
これまでの問屋さんを裏切らないようにして、新しい問屋さんとの関係を作っていくという感じです。

仕立屋>問屋さんを裏切らないとは、そのボーダーがあるんですか?

瀧>今までのご恩もあるし、元のルートの売り上げも大事にしないと、問屋さんをないがしろにしまった分は、新しい販路ができたとしても結局プラスにならない。
今、つくり手から問屋を外していこうという流れがあるじゃないですか。うちは問屋さんとうまく付き合いながら、新規を開拓していこうという感じで、問屋と喰い合いをしたくないんです。
問屋さんが持っていないお客さんのところに自分たちが直接いく分にはOKという考え方です。

仕立屋>新しいお客さんを探しにいくときに、こういうのがあったらいいなぁとか、これが足りないなぁ、って何か思うことありますか?

瀧>職人のタイプに分かれると思うんですけど、僕はプレーヤー側なんです。
そのため会社で一番足りないなぁって思うのは、営業する時間と営業スキルです。これまで営業は外に任せていたんですよ、僕も営業が苦手で…だから、外で走り回ってくれる人がいないんですよ。

仕立屋>もし営業がいたとしたら、見つけてきて欲しい事とか、営業に期待することってなんですか?

瀧>既存の商品を別の形にしてくれるところと取引がしたいんです。
一から商品開発をしたくないわけじゃないんですけど、商品開発に追われるのは、ちょっと…商品開発をして、ちゃんと売って、現金化するそこまでできれば良いんですけど…

売り場を持っている会社からの企画依頼だと、売り先が明確でなんですけど、商品を作るだけつくって売りかたがわからないっていうことがよくあるんですよね。やっと売り先見つけた!だと、毎回売り先を探さなければならないから、すごく大変で…なので、毎回新しい企画を立てて、毎回違う市場を探すのは厳しいなって思います。

仕立屋>「小さいものに対する商品開発に抵抗がある」ってアンケートで記入していただいたんですけど、この辺りが理由ですか?

瀧>和紙は最終製品ではなくて、中間商材で何か加工をしてもらって最終製品となるものなんです。紙を加工せずそのまま使えるって、ハガキとかそれくらいです。
うちは大判和紙を漉いている会社なので、例えば一般の人に売りやすい用にサイズが小さくすることを求められると、大紙屋である必要性がなくなっちゃうんですよ。
それに、小紙屋さんが作れる商品をうちがつくるとなると、単価が大紙の方が高いのでうちは負けちゃうんですよね…

そうなると大紙のまま販売できて、販売先で大きい紙の方が取り都合がいいからと言って加工して小さくしてもらわないと、勝てないんです。

仕立屋>一般のお客さんと触れ合う機会もありつつも、ベストは大判で扱ってくれる企業と出会えた方が嬉しい?

瀧>そうです。
あとは、うちは機械漉きの色ものをやっているので、自社製品の強みを活かして使ってくれるところだと嬉しい。

新たに紙をつくる場合だったら、うちの技術じゃないとつくれないものをつくっていかないといけないと思っています。会社のブランディングをして滝製紙所製ならクオリティーが安心して製品がつくれると思ってもらえる様にするか、という意識ですね。

仕立屋>越前和紙を普及したいというより、会社をやっている和紙を漉くプレーヤーとして、代表的な作品をつくって勝負したいという事ですか?

瀧>越前和紙のPRとか産地の魅力を伝えるって、ここの産地の人たちって身についてしまっているもので、やれって言われなくても出来ちゃうんですよね。責務だと思っているから、意識もしていないので。
こんな産地のために各々動いているとことも珍しいなと思います。なので、産地PRというより、会社の色をちゃんとつくっていきたい というのは、強く思います。

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仕立屋>各社の色が集まって、また産地の力にもなるってことですね。例えば、進んで言った先に5年後でも10年後でも、何を伝えていきたいですか?

瀧>うちはもともと襖屋なんで、目標としては「この襖があるから和室作りたいな」ってなってくれたら嬉しいです。
うちの和紙を貼るために和室をつくる。和室の減少はどうやっても止められないんですけど、和室でなくても「この紙を貼りたい」って思ってもらえることをしたい。

仕立屋>その空間を一緒に作ってくれる人とか、その空間に転化してくれる人がいたら目標に到達できるということですね。例えばなんですけど、瀧さんがこういう話してくれている内容や瀧さんの会社の情報をまとめてくれて、届けたい相手に届くシステムがあったら使ってみたいですか?

瀧>はい、めっちゃ使いたいです!!会社の魅力ってやっている本人だと伝えられなかったり、当たり前すぎてこの技術が凄いって気づかなかったり、自分でいうのが恥ずかしかったり…だから、魅力を言語化してもらいながら会社プロフィールを一緒に作ってくれる人がいたらいいなって思います!

仕立屋>先ほど産地の話で、責務として産地を…とお話しされていたんですど、よく文化継承のためにとか、伝統産業として伝統を…ってこういうことに何か思うことってありますか?

瀧>越前和紙は伝統工芸ではなく伝統産業なんです。工芸とか民芸ってつくっている側と受け取り側の意識の差も大きくあるなと思うし、なのでそこは自分たちが伝統産業と思っていても、外から見たら産業って言うほどの産業じゃないでしょって見られるかもしれない。
伝統って、自分がつくったものではないオプションを使っているんですよ。和紙だと1500年の歴史がありますって、すごいオプションじゃないですか。このオプションの価値を下げないためにも、自分たちが今やっている最新のことが、100年後伝統になるぞっていう気持ちでやっていかないと、このオプションが弱くなってしまう。

今産地では、和紙のことなら越前に頼めばなんでもクリアできるという、技術力の高さをPRをしていかなければならないという流れになっている。
産地として残るためには、売れていかなければいけない。特別な時にしか使われないものだと、産地として廃れてしまうので、当たり前に使ってもらえるものをつくって、売る、それをレギュラー化させなければならない
でも、大衆向けというよりも求められる中で、どこにエッジを立てていくかっていうところですかね。

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仕立屋の考察!

①何を誰に②どうやって売っていくといいのか③文化をつなぐとはどういうことか、という疑問が、瀧さんのディープなお話で見えてきました。

①何を誰に
既存の問屋さんとの関係を維持しながら、別の市場を増やしていくことが必要。中間商材をつくっている職人の場合は、売り先が個人より会社となるため、加工して商品にしてくれる売り先を多く見つけることが求められる。

②どうやって売っていくといいのか
会社の魅力を言語化しながら営業し、レギュラー商品を別の形、別の市場で取引できる会社を見つけること。それが、これまで培ってきた自社の専門技術で勝負できることに繋がり、自社のブランディングにもなる。

③文化をつなぐとはどういうことか
歴史を守りながら100年後の伝統をつくるために、最先端のことをすること。そして、当たり前に使ってもらうものをつくり続けること。これが蓄積されて文化になっていく。

瀧さんのお話でわかったことは、
●最終製品をつくるばかりがベストな解決策ではない!
●自社の強みを客観的に通訳してくれるパートナーを探している!
●全く形を変えて新規参入は返って勝ち目が見えない!
●産地文化を残すために、今の時代に必要とされるシーンへ!

それで、短期プランとは何なのか!?

改めて、瀧さんのお話を参考にして「SHOKUNIN」と「SHOKUNIN BUNKA」というものを再定義してみます。

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文化は結果です。そこにたどり着くためには、社会の状況によって生まれた需要があり、需要に対する人々の行動があり、その行動を続けることによって習慣となり、結果文化となる、ということです。

昔の習慣や文化に固執するし顧客の需要や行動と合わない場合、その市場と産業は衰退していってしまいます。今必要なことは、時代を捉え、つくっているものを需要とマッチさせ、人々の行動をつくることなのかもしれません!!

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この「↑?」ハテナの部分には、
「需要とマッチさせ、人々の行動をつくる」ために各職人たちがつくっているものを、今まで繋がらなかった市場と繋げていくシステムを構築することが短期的成果となり、
その「↑?」部分の成果の蓄積を、職人文化人類学にストックし分析をしていくという流れであれば現実的かつ長期的に職人をサポートできるのではないか!!

 

最後になりましたが、お忙しい中インタビューにご協力していただきた瀧さん、本当にありがとうございました!
コロナが落ち着き、世がワクチン接種した人で溢れた時に3Dでお会いいたしましょう!!

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