職人文化人類学

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【職人のリレー】 第七走者 株式会社タケツネ 武田規与枝(前編)

2019/4/8 職人のリレー Writer:仕立屋と職人 イシイとワタナベ

witter:ワタナベ

バトン受け取りました、第七走者です!

今回の走者は株式会社タケツネの武田規与枝さんです。

タケツネは輪奈ビロードという生地を
100%シルクで製造を続けている機屋は全国で見てもかなり数少ない。
しかも、今年で創業100年っ!おぉ!!

初めて、タケツネさんの工場を見学させていただき、
輪奈ビロードを見せていただいた時から私はすっかり虜になりました。
美しいという言葉がピッタリの布です。

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輪奈ビロードは織田信長が羽織っている赤いマント、
というと想像がつくでしょうか??
そうです、あれです!!

その輪奈ビロードをつくっている現場と外世界の架け橋をしている
武田規与枝さんに第七走者のバトンが渡ります。

ほんわか優しい雰囲気の規与枝さんが抱く
胸の内の秘めたる想いを聞かせていただきました。

ほんと、是非、皆さんに輪奈ビロードを知っていただきたい!!
なので、今回記事が書けることが最高に嬉しいですっ!!!
止まらない興奮っ!!!!

実は、書きたいこと伝えたいことが溢れすぎ、
そして、興奮が止まらなかったため
急遽前編と後編という2本立てになりました。
(本当は4部構成くらいにしたいくらい。)
内容モリモリです。

それでは、前編走りますっ!!!

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「輪奈ビロードってすごいものなんだ!
これを続けていかなければ!」

仕立屋と職人 ユカリ(以下 ユカリ):
いつもタケツネさんのお話を聞かせていただいているので規与枝さんのお話を聞かせていただきたいですっ!
規与枝さんは社長の姪御さんにあたるんですよね?
規与枝さんのお父様は工場で職人として働いてらっしゃるとお聞きしました。
そうすると、やはり小さい頃から輪奈ビロードって身近なものだったんですか?

株式会社タケツネ 武田規与枝さん(以下 規与枝):
母も機織りしていたんです。
でも、小さい頃は意識しないですよね、家の事とかって。
小学校の頃に浜ちりめんのことを長浜の産地の事として勉強した時に、
うちでもガチャガチャと織っているから、浜ちりめんだと思って、
親に聞いたら「違うぞっ!」と言われ…
そこで初めて、輪奈ビロードというものを認識した感じですね。

ユカリ:
そうだったのですね!
その小学生の時と、今働いていて毎日接する輪奈ビロードと
何かビロードに対するイメージって変わりましたか?

規与枝:
小さい頃は織っていることが日常だったので、
輪奈ビロードということへの意識はあまり無かったんですが…
7、8年前に白生地問屋さんの催事のお仕事で、
消費者の方の前で販売する機会があって
そこで初めてお客様から直接評価をいただいて、
輪奈ビロードの凄さを身に染みて感じて。
それから輪奈ビロードに対しての意識が変わりました。

輪奈ビロードってすごいものなんだ!
これを続けていかなければ!
という再認識をしましたね。

ユカリ:
確かに、輪奈ビロードと出会った時の
ファーストインパクトが忘れられませんっ!
とっても綺麗で…
今まで出会ったことがない生地だったので、最初見たとき驚きました!

実際に昔はこの地域では浜ちりめんに負けないくらいの規模で
輪奈ビロードが地場産業として、盛んだったお聞きました。
現在はタケツネさん一件だけになり、
しかも絹100%のものを作り続けているのは
日本で此処、タケツネさんだけになっているという現状…
やはり、こだわりや強い想いっていうのがあるんですか?

規与枝:
そうですね。
絹100%というのは、軽いですし、
保温性保湿性ということもあるので
絹であることは大事だな、と思っています。
ポリエステルで織った事もあるんですけれども
重さが全然違うんですよね。
私は、軽さがすごく好きなので…
絹で織るという事にはこだわっています。

ユカリ:
触ってみる、着てみる、だからこそ感じられる価値ですよね。

規与枝:
光沢とか色の出方とかも綺麗ですし…

ユカリ:
はいっ!本当に綺麗ですっ!!!
染色もグラデーション具合が美しくてっ!!!

規与枝:
うちがもし辞めてしまったら
コート地としてのビロードが無くなってしまうので
なんとか続けよう…と思っているんですけど。

これが無くなったところで日常生活に支障があるわけではない、
けれども、輪奈ビロードが無くなってしまったら、
この技術が無くなってしまう、
だから続けていきたいなと思う
んですけどね。

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輪奈ビロード、皆さんご存知でしたか?
お恥ずかしながら、長浜に来てから知りました…

冒頭で信長のマントの話をさせていただきましたが
実際に輪奈ビロードは着物用のコートとして使われます。

現在、洋装展開は少ないようです。
その為、なかなか着物を来ることが少ない方達には
輪奈ビロードとの接点が少ないようです…
そうです、まさに、あたしのことです。

和装の世界での生地幅は基本小幅、約38cm。
タケツネでは52cm幅が限界とのこと。
何故なら、手作業で完成させる部分が多いため、
幅が広すぎると作業する手が届かなくてつくれないそうです。

この昔から変わらない工程が
滋賀県伝統的工芸品に指定されている理由でもあります。

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「日々織っていなければわからないこと」

規与枝:
輪奈ビロードは針(芯材)を入れて織っていくんです。
パイル糸と地糸の調整も織り方もすごく難しいですし、
出来上がってパイル糸の輪奈を切るのも天を切らなければ、
染めた時に綺麗に糸が開かないので…
輪奈ビロードの手間のかけ方はすごいと思います。

現在、工場で働いているベテラン織り職人の年齢層が高いので
若手も入れなければとも思うし、
私も織れるようにならなくちゃ、とも思うんですが…
すぐには織れるようにはなれなので。
10年かかってもそれでも難しいところはあります。

ユカリ:
難しい…?

規与枝:
糸と織機の調節ですよね、季節的なものもありますし。
湿気も関係あり、今(春)と梅雨でも違いますよね。
日々織っていなければわからないことがたくさんあって
それに慣れるまでとても時間がかかるんだと思います。
糸が切れていないかということも常に意識していないといけないし…

あーーー、
本物を是非皆さんに見てもらいたい
という欲求が止まりません。
溢れ出て来ております!!

輪奈ビロードがどんな風に作られているのか
ご説明させていただきたいと思いますっ!

輪奈ビロードの白生地ができるまで!

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① 織の工程
輪奈ビロードというのは
表面に「輪奈」と呼ばれるループをつくり、生地の表情を変化させます。
輪奈の集合で柄を形成したり、全面輪奈で覆ったり。
タオルの表面をイメージしてみてください。あんな感じです。
ジャガード織機で「針」(写真:紫色の太い糸のようなもの)を
入れながら、輪奈をつくっていきます。
なんと、一反(約11,5m)織るのに2日〜3日かかるのです。

少し前までは針金を使って輪奈をつくっていたとのこと。
以前、社長にお話を伺った時に
「まず、朝の仕事がこの針金を真っ直ぐにする仕事から始まるんですよ」
と、おっしゃっていました。

そして↓この写真だと輪奈がわかりやすい!!

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② 切の工程
商品によって、輪奈を切る作業を行います。
モチーフの一部分だったり、全面の総切りだったり。
その一つ一つの輪奈を、一本一本手で切っていきます。
先ほどの規与枝さんのお話にもありました、
天を切らなければいけないとおっしゃっていたのはここです!

この作業で必須な仕事道具↓カッターです。
もう、どこにも売っていないし、どこもつくっていないそうで、
昔、切りをやっていた方達から集めたり、自分で道具を作ったりしているそうです。
自分の手に合うよう、テープを巻いて持ち手をカスタマイズします。
ボールペンの替え芯のように中に刃が入っていて、
一反切ったら研いで刃の角度を調整しなければいけない、
研ぐのも、角度調整もかなり熟練した技が必要とのこと。
(このカッター、カッコよすぎる…)

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③ 抜の工程
最後に全ての針を抜いていきます。
少しづつ、少しづつ抜くのです。
左手で生地を抑えて、右手で絶妙なスピードで抜きます。
このスピードも絶妙な加減があるとのこと…

このようにして輪奈ビロードの白生地が出来上がります。
そして、この後染色されるのです。
かなり省略した説明ですが、主要な工程を抜粋してみました。

この手間があるから染色も美しく染まるのです!!

な、な、なんと一色で染めても三色の表現が出るんです!!
表面には「地」「輪奈」「切」この三カ所ができます。
このそれぞれの部位は糸の形状が変わるため
染料の入り方も変わり、発色が違ってくるのです。

手間も時間もかかるため
完成された白生地を出荷する時や、商品をお客様にお渡しする時には
「お嫁に出す気持ちになる」と、規与枝さん。

なんとも熟練した技術の集結!
工場見学&職人大好きなあたしとしては、
かなり萌えポイントが凝縮されている世界です。

前半戦、現場からは以上ですっ!!
後編では、知られざる呉服業界の世界を覗きにいきたいと思います。

続く。

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